東京地方裁判所 昭和62年(特わ)1080号 判決
本店所在地
東京都練馬区石神井町六丁目三一番六号
大銀観光株式会社
(右代表者代表取締役 飯島正男)
本店所在地
神奈川県相模原市松ケ枝町二三番地の一三
大銀建設有限会社
(右代表者代表取締役 飯島正男)
本籍
東京都練馬区石神井町六丁目三一番
住居
同都同区石神井町六丁目三一番六号
会社役員
飯島正男
昭和九年四月八日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人大銀観光株式会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人大銀建設有限会社を罰金八〇〇万円に、被告人飯島正男を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人飯島正男に対し、この裁判確定の日から三年間、その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人大銀観光株式会社(以下「被告会社大銀観光」という。)は、東京都練馬区石神井町六丁目三一番六号
(昭和五六年八月三日以前は、同都中野区白鷺一丁目三〇番一〇号)に本店を置き、不動産の管理、売買等を目的とする資本金一〇〇万円の株式会社、被告人大銀建設有限会社(以下「被告会社大銀建設」という。)は、神奈川県相模原市松ケ枝町二三番地の一三に本店を置き、土木、建築、設計施行等を目的とする資本金二〇〇万円の有限会社であり、被告人飯島正男(以下「被告人」という。)は、右被告会社二社の代表取締役としてこれら被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、
第一 被告会社大銀観光の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
一 昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が二四一六万六〇三四円あった(別表1修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年五月三一日、東京都練馬区栄町二三番地所在の所轄練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六二八万二四九円でこれに対する法人税額が一四一万三一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第七二七号の一)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八七一万八八〇〇円と右申告税額との差額七三〇万五七〇〇円(別紙5の(1)ほ脱税額計算書参照)を免れ
二 同五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が七三〇八万五四五四円あった(別紙2修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年五月三一日、前記練馬税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八八二万六三六一円でこれに対する法人税額が二三二万六九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の二)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二九三一万五六〇〇円と右申告税額との差額二六九八万八七〇〇円(別紙5の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れ
第二 被告会社大銀建設の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空工事費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上
一 昭和五六年四月一日から同五七年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が四四四九万七八六七円あった(別紙3修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年五月三一日、神奈川県相模原市富士見六丁目四番一四号所在の所轄相模原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四九一万九〇一円でこれに対する法人税額が一四六万二六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の三)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一七七一万八三〇〇円と右申告税額との差額一六二五万五七〇〇円(別紙6の(1)ほ脱税額計算書参照)免れ
二 同五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が二九二五万八四九〇円あった(別紙4修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年五月三一日、前記相模原税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三九八万七二三円でこれに対する法人税額が一一八万六二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の四)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社右の事業年度における正規の法人税額一一三二万六〇〇円と右申告税額との差額一〇一三万四四〇〇円(別紙6の(2)ほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
甲、乙、番号は、検察官請求の証拠等関係カード記載のそれによる。
判示全部の事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書一九通
一 飯島秀雄(一七通)、長岡武雄(四通)、星野敏治、松田重孝、飯島高広、飯島久子、塚原恵子(七通)、長岡笑子、星野昭大(四通)、中村一郎、井上雄二、河本冨盛、臼木正直(二通)、小野沢守(二通)、石川正、伊藤敏夫、小島敏明(四通)、佐藤洋夫、新倉勝、新井正男、田中繁男、山田政弘、下平直美、岩間充秀、小山博、中川仁見、菅沼弘、仲間一雄、金井敏宰、冨永文子、野口英世及び石曽根晃の検察官に対する各供述調書
判示第一全部の事実につき
一 検察事務官作成の捜査報告書二通(甲1、乙20)
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 販売用土地調査書
2 販売用資産調査書
3 賃借料調査書
4 租税公課調査書
5 水道光熱費調査書(甲6)
6 受取利息調査書(甲7)
7 支払利息調査書(甲8)
8 土地仕入高調査書
9 雑費調査書
10 商品売上高調査書(決算期の誤り)
一 押収してある大銀観光株式会社の
1 法人税確定申告書(昭和五七年三月期)一袋(昭和六二年押第七二七号の一)
2 法人税確定申告書(同五八年三月期)一袋(同押号の二)
判示第二全部の事実につき
一 登記官作成の商業登記簿謄本
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 売上調査書
2 賃貸収入調査書
3 未成工事支出金調査書
4 販売用資産棚卸高調査書
5 交際費調査書
6 修繕費調査書
7 地代家賃(賃借料)調査書
8 水道光熱費調査書(甲19)
9 公租公課調査書
10 消耗品費調査書
11 受取利息調査書(甲22)
12 支払利息調査書(甲23)
一 検察事務官作成の捜査報告書(甲14)
一 押収してある大銀建設有限会社の
1 法人税確定申告書(昭和五七年三月期)一袋(同押号の三)
2 法人税確定申告書(昭和五八年三月期)一袋(同押号の四)
(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社大銀観光
判示第一の一及び二の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
2 被告会社大銀建設
判示第二の一及び二の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
3 被告人
判示第一の一及び二並びに第二の一及び二の各所為につき、法人税法一五九条一項
二 刑種の選択
被告人につき、いずれも懲役刑を選択
三 併合罪の処理
1 被告会社二社
いずれも刑法四五条前段、四八条二項
2 被告人
刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の二の罪の刑に加重)
四 刑の執行猶予
被告人につき、刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、不動産の管理、売買等を目的とする被告会社大銀観光及び土木、建築、設計施行等を目的とする被告会社大銀建設の各代表取締役である被告人が、景気の変動に備え、また、老後の蓄えを作っておきたい等として両被告会社の法人税を免れようと企て、被告会社大銀観光では賃貸収入及び売上を除外したり、架空の工事費、広告宣伝費及び給料を計上するなどして、二事業年度分合計で三四二九万円余の、被告会社大銀建設では架空工事費を計上したり、売上及び駐車場収入を除外するなどして、二事業年度分合計で二六三九万円余の各法人税を免れたというものであって、そのほ脱率は、被告会社大銀観光が約九〇・一六パーセント、被告会社大銀建設が約九〇・八七パーセントといずれも高率であり、その犯行の動機に酌むべき点はなく、ほ脱の具体的方法も、架空の工事費及び宣伝費の計上については、手数料を支払って空の領収書を書いてもらったり、売上除外においては、真の売買契約とは異なる契約書を作成するなどして税務調査に備える一方、裏に回した所得は多数の仮名預金にするなどして隠匿していたもので、その手口は巧妙であり、犯情は悪質である。加えて、被告人は国税当局による査察開始後も、関係人に口裏を合わせてくれるよう働きかけたり、従業員等に出頭を拒否させて捜査の進展を妨害したりしたことや本件の罪質などの点をも併せ考えると、被告人の刑事責任は軽視できないといわなければならない。
しかしながら他方、本件脱税の結果は前記のとおりであって、同種事犯に比べてとくに高額なものではないうえ、査察調査後の被告人の態度についてみると、被告人は査察後同和関係者を名乗る者から国税局に働きかけて少額の追徴課税だけで済むようにしてやるなどと言葉巧みに勧誘され、その誘いに乗って査察調査に対しいったん非協力的な態度をとったため、その後同和関係者への依頼を断った後においても、従前の態度を改められないまま逮捕されるに至ったものであり、その後まもなく自己の非を反省するに至ってからは、本件の全犯行を自白し捜査に協力していること、両被告会社は、修正申告した分、更正処分及び本件起訴による各増額分並びに賦課決定処分による税額分について、法人税のみならず地方税についてもいずれも完納したこと、被告人は公判廷において今後は正しく申告納税する旨誓っていること、税理士の指導の下に各種帳簿を正確に記帳するように経理体制を改善したこと、被告人はこれまで真面目に働き、前科前歴もないこと等、被告人に有利な事情も認められるので、これらを総合勘案して、被告人については今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおり刑の量定をした。
(求刑 被告会社大銀観光につき罰金一二〇〇万円、被告会社大銀建設につき罰金八〇〇万円、被告人につき懲役一年)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 中野久利 裁判官 鈴木浩美)
別紙1
修正損益計算書
大銀観光株式会社
自 昭和56年4月1日
至 昭和57年3月31日
〈省略〉
別紙2
修正損益計算書
大銀観光株式会社
自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
〈省略〉
別紙3
修正損益計算書
大銀建設有限会社
自 昭和56年4月1日
至 昭和57年3月31日
〈省略〉
別紙4
修正損益計算書
大銀建設有限会社
自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
〈省略〉
別紙5
ほ脱税額計算書
会社名大銀観光株式会社
(1) 自 昭和56年4月1日
至 昭和57年3月31日
〈省略〉
(2) 自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
〈省略〉
別紙6
ほ脱税額計算書
会社名大銀建設有限会社
(1) 自 昭和56年4月1日
至 昭和57年3月31日
〈省略〉
(2) 自 昭和57年4月1日
至 昭和58年3月31日
〈省略〉